正しい考えへの対処法

昨年は確信的な思いを持って自分も周囲も悩んでいる方に何人もお会いした。

人は一般的に自分が正しいと思って生きている。「これはこうなのだ」と考え、それが正しいと思うとそれを人に主張したくなる。実際、私が真相心理療法に到達したとき、それを人に言いたくなって、自分もユングや河合隼雄先生のように主張したいと思った。自分の正しい考えに行きついたとき人は自己主張したくなるようである。

自分だけの思いでは安心しないから、人にわかってもらうことで安心しようとする。だから「これはこうなのだ」と確信すると周囲にいる人に話すことになる。聞いた人はそういうこともあるけれど、と思いながら聞く。そのようなことが度重なるとそのうちに嫌になる。正しい考えの裏には不安があり、その不安のために正しい考えの主張は繰り返しなされ、受ける側のストレスは相当なものになる。ある人は正しい考えの配偶者のためにワケのわからない病気、例えば膠原病になっていることがある。

自分の正しい考えのために自分も周囲も困っている方の中で、ご夫婦で来談された方は良くなってきた。けれども親のことで困った方と子どものことで困った方は上手く行かなかった。

夫婦も長年連れ添うと相互の依存度は相当に高い。片方が正しい考えになって自己主張的になっていると、長年の連れ添った夫婦関係はバランス上他方は控えめで配慮的で熟慮的な性格になっている。この関係で配慮的な人が正しく不安定な他方を支えることになる。この支えが正しい考えの不安定さを癒していくようである。

他方、親と子、子と親の場合、血のつながりはあっても世代が違い、家庭は別になってきている。子といっても20代後半だから、半ば独立し、まともに行けば独立した家庭を持っているはずの年代である。そのような関係では支えあいは難しい。

そうすると今までの不安を支えるカウンセリングで上手く行かなかったのは当たり前ではないか。もっと違うやり方を考えねばならない。

年取った親が子どもの家庭生活に口を出して困っている場合や、正しい考えの子どもが親に暴力を振るうとか、部屋に閉じこもって親と一切口をきかないようになった場合は、話し合いも支え合いも難しい。

親が正しい人の場合、配偶者がいればその人が頼りになるかもしれない。配偶者が亡くなっていれば、代わりにカウンセラーが支えなければならない。それには良い関係づくりが必要で、これまでの経験では、「そうか、そうか」と何も否定せずに聞くことが大切なようである。でもそれは受容することとは違う。それだけではないとも思っている。

子どもといっても、20代後半の子どもでは、支えあうと言うよりも、相手は正しい考えの人であるから、対等にしっかりと話し合うことで事態が開けてくるのではなかろうか。ある事例では、暴力で正しいことを主張する息子に対して父親がしっかりと正面から話しをすることによって次第に独立の方向に向かい、息子は経済的には自立できないが一人の生活を選びとった。

正しい人は自分の論理に合わないことには怒りを爆発させやすいので、正面から向き合って話し合うことは難しい。けれど、勇気をもって冷静に話し合うことが関係を開いていくと思う。感情的な積極的話し合いは相手の感情の爆発を誘発させるか、相手を萎縮させてしまうだろう。辛抱強い冷静な話し合いを知恵を絞ってやって行きたい。それだけが、自分の正当性を胸に秘めて閉じこもっている人の心を開くのではなかろうか。