タテ社会からヨコ社会へ

50年くらい前に中根千枝さんの『タテ社会の人間関係』という本がベストセラーになった。欧米はヨコの人間関係であるが、日本はタテの人間関係が大切であるという人類学からの提言であった。その当時は上司と部下、先輩と後輩、師と弟子など重要であった。

そのタテの人間関係が昭和40年代に起こった学園紛争で壊れ始めた。先ずは大学の教授と学生の関係で壊れ始めたのだ。それから50年ほどたった今では、その当時から始まった核家族化と共に家が壊れ、大家族は地方の農魚村でしか見られなくなった。NHKテレビの鶴瓶さんの『家族に乾杯』は人気番組の一つである。この前の和歌山のミカン農家の祖父母、父母、孫たちの一家の情景は目に懐かしく写った。このような情景は今都会では難しい。

今都会では、夫が大企業の正社員でなければ専業主婦は難しい。女性も一人で生きる手段をも身につけ独立性を高める時代になった。女性が経済力を持ち、男性と対等に関係を持つ時代になった。そして女性も母親から離れ自由に暮らすようになった。「旦那は元気で留守がいい」は今もそうであるが、「父母は元気でたまに会うのがいい」が加わったのではないか。祖父母になった人も孫がたまに来ると疲れるようになった。

核家族の中でも変化が起こったように思う。夫婦別々の仕事を持ち、子どもは塾に行くので、家族がみんな揃う時間が合いにくく、核家族の中もバラバラになってしまった。

会社の中でも、上司が年下ということも多くなり、先輩後輩関係も薄れてきた。目上の人が年下ではその言葉の使いようがない。

子どもが自立して自ら外へ出て行くようになると、父母の役目は済んでしまう。そして一人ひとりの独立性が重要になってきた。ここにタテの人間関係が消え、ヨコの人間関係が現れた。

私のこの心理臨床の世界も先輩後輩というタテの関係はめんどくさいので、斜めの関係が生きているのではないか。臨床心理士が医師の指導を受けたがるのもタテ関係回避のためではなかろうか?今弟子をもっている師匠的な人はどれくらいいるだろうか?
とにかく時代が変わった。