前回公開の「ユングのアニマ・アニムスの発展過程」の続きとして書かれたもののようです。最終更新日時は2008年10月です。途中、西郷信綱について触れられていますが、西郷信綱の「古代人と夢」(平凡社)は、いつも西村先生が夢分析について語られるときに真っ先に挙げられていた重要なテキストです。
これまでの心理療法の基本的考え方
フロイトは神経症的な症状の背後に隠された心理があることを発見し、意識の背後に無意識の心の世界を想定して、無意識の心への探求の方法を考えました。はじめは意識の抑圧する機能を弱める催眠面接法を試み、次に夢判断から夢の背後に無意識の心理が見つかりやすいことに気づき、夢からの連想法を試み、最後に自由連想法を発展させました。現在でも寝椅子を使って自由連想法を行っている人もありますが、多くは対面による自由連想法的面接になっていると思われます。
ユングは夢や想像内容に出てくるイメージの象徴の統合的機能を認め、夢や想像を利用した面接を行いました。夢を見たり想像を広げたりすることが即人格の発展につながると考えたのです。フロイトは、夢は無意識からの暗号文のようなメッセージと考えたのですが、ユングは、夢はそのまま無意識の心の表現と考え、そこからいろいろな無意識の意図を探り出そうとしました。意識の心はある偏りを示しているので無意識が足りない面を補償しようとしていると考えたのです。
ユングの心理学的な考えに基づいて心理療法の実践に徹したマイヤー、C.A.は「夢見ること即治癒すること」と考えました。そして、古代ギリシャの医神アスクレピウス信仰における夢療法に同じ考えを見出しました。夢見ることによる治癒は日本の古代の夢信仰の中にも見出すことができることを国文学者西郷信綱は明らかにしました。
以上の考え方は心の構造を考え、その構造の欠陥やバランスを修復したり調整するという考え方です。
ロジャーズ、C.R.は、人は概念的な考え方、つまりああすべきだ、こうすべきだとか、あの人はこうだとか決め付けた考え方をしていて身動きができなくなっているので、概念的な考えの背後に息づいている感情に焦点を当て、感情を自由に表現できるような面接を考えました。そのために共感と受容が重要だされてきなした。その結果、概念的な考えでなく、感情に自由に触れながら生きることが大切ということが忘れられがちになりました。
また一方感情表現を重視する立場では、エンカウンターグループなどで自分の内面の感情に生きることが大切であることを経験させました。その結果、そのストレートな感情表現を日常生活にそのまま持ち込んだ人は、人間関係を壊し、かえって不適応に陥ったりしました。これは個人療法と小グループ療法の違いが十分に研究されていないところから生じてきた問題です。
ロジャーズは様々なことを試みましたが、彼が見出したことで大切なことは、人はネガティブな感情を自由に表現するようになると、その後に次第にポジティブな感情を出し始めるということです。例えば、夫に対する不満をぶちまけているとその後に肯定的な感情も出せるようになるということです。
これはある程度健康な範囲で言えることで、いつも正しいとは言えません。