心の発達 胎児

 現在公開しているシリーズの次の原稿です。原稿の冒頭は「心の発達」とだけ書かれていますが、保存されていたファイルの名前は「心の発達 胎児」となっています。最終更新日は2008年11月でした。

 

 

心の発達

 

 心は植物の種子が春が来て発芽し双葉になり、成長し一本の木になるように、あるいは、卵から幼虫が生まれ、幼虫がさなぎになり、脱皮して成虫が誕生するように成長し変化するものである。

人間も成長し変化する。

 三木茂夫『胎児の世界―人類の生命記憶』(中公新書1999)によると、三木は動物の発生の研究に生涯をかけた人で、胎児の顔を見続けた。生後32日目には魚のおもかげが、それから1週間ほどの間に爬虫類を経て獣のおもかげに変化し、70日目に人間のもかげになっていくと述べている。個体発生は系統発生を繰り返すという仮説を胎児の研究から説明したものである。胎児は「古代の1億年を数日で復習する」と述べている。

 「人間の身体に見られるどんなものにも、その日常に見られるどんなものにも、すべてこうした過去の“おもかげ”が、それぞれのまぼろしの姿で生きつづけていることが明らかとなる。」という三木茂夫の考え方はまさにユングの普遍的無意識の考えと同じである。

 ここでおもかげとはイメージのことである。このイメージがずっと生き続けているのである。

 胎児は受胎後2週間目で動いていることが超音波の画像で捉えられている。それを見た女子学生は命の誕生に感動していた。

 胎児はおなかのなかで母親の声を聞き続け、喜んだり悲しんだり、時には酒に酔っ払ったり、睡眠薬が入ってきたりさぞかし大変だろうと思う。クリニックおぐらの小倉清先生は4歳までの子どもはおなかにいたときのことを憶えていて聞くと話してくれることがあると言われたので、私も児童養護施設の4歳の子どもに、お母さんのおなかにいたときどうだったと聞いたら、大変だったと彼女は答えた。部屋に帰って、おじさんにおなかにいたときどうだったと聞かれたとさも不思議そうに言ったそうである。それ以来その子どもは私に会うのを楽しみにしている。きっと彼女は私に思わず大切なことを話してくれたに違いない。

 胎児はお母さんがうれしいとうれしいだろうと思う。悲しければ締め付けられるような静けさを感じているのではなかろうか。母親の声はずっと聞いているから、生まれてから母親の声に一番反応する。母親とそれ以外の人では明らかに違う。子どもが誰よりも母親を慕うのはこのためである。ここに人間関係の基礎がある。

 母親が妊娠中幸せであることが胎児の安定感になり、生まれてからも母親と結びつく基礎となるから大切にしなければならない。昔胎教ということが言われたが、一時は忘れられた。今、超音波画像のお蔭で改めて胎教の重要性が明らかになった。母親は妊娠中幸せであってほしい。

 

 

 

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