長谷川泰子
いろいろとやることがあって忙しく、疲れがたまっていた。季節の変わり目で落ち着かない時期でもあり、天気が悪い日が続いたこともあってなんとなく気分も晴れない。そんな時、長く面接を続けていた人と、更に一歩踏み込んだような話し合いができたことがあった。今まで話したことのなかったようなことを話し、思いつかなかったようなことを思いついて、今までと違う視点で物事が見ることができ、新たな発見・気づきも得て面接を終わった。集中して話をしてその分の疲れはあったが、それも心地よい疲れで、気分は逆にすっきりし、天気は悪いが晴れ晴れとした気分になった。今までの疲れは吹き飛ぶような思いもして、本当のことを話し合えると元気が出るんだなと思った。
この仕事をしていると、人の悩みを聞いてしんどくないか、ストレスがたまらないのかとよく聞かれる。もちろん大変な話を聞くといろいろな影響を受ける可能性はあり、だからこそスーパービジョンや教育分析が必要になる。しかしこの仕事をしている人の多くは、やはりこの仕事が好きでやりたくてやっているのだと思う。少なくとも私はそうだ。相談に来られた方が真剣に悩んでいればいるほど、こちらも自然とエネルギーがわいて、耳を澄ませて話を聞き、一生懸命考える。こういうことが好きでこの仕事をしている。
長く話を聞いていても、いろいろと問題が込み入って長い複雑な経緯があって、なかなか良い方向性が見出せないことは多い。問題の本質についてある程度の見立てがあっても、話を進めていくうちに今まで見えていなかったものが急に大きな問題として見えてくることもある。ただ、流れはいろいろと変わっても、日常生活では触れない・触れられない、一歩踏み込んだ本当の話し合いができると、それが一種の安心感につながり、次の展開を生み出す原動力になるところがあるように思う。本当のことはなかなか外では言えない。言えないからこそ、それをないもののようにして過ごしてしまうが、しかし本当のことは本当だからこそ変えようもない。だからこそ、日常から少し離れたカウンセリングの中で本当の気持ちを見出し、確認することが大事なのだと思う。
本当のことをはっきり見ると、腰が据わる。腹が決まる。それが存在の根っこになるところがあるのではないか。本当がどんなことでも構わない。小さなことでも、くだらないことでも、悪いことでも、ずるいことでも、どんなことでも構わないのではないか。そういったいろいろ“本当”の上に私たちは成り立っている、そんなことを考えた面接だった。