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旅の経験

長谷川泰子

 

 コロナの影響で今は難しくなっているが、旅は好きだ。以前は一人で海外に行ったりもした。個人で旅に出るといろいろと苦労もあるが自分では旅の経験が今の仕事に役立っていると思う。

 初めて海外に一人旅をした時は緊張のあまり、行きの飛行機に乗った瞬間に胃が活動を完全にストップしてしたような気がした。ひどい乗り物酔いになり、機内では何も飲めず何も食べられなかった。10時間以上のフライトで、吐き気に苦しみながら、なぜ私はお金を払い、時間をかけてこんなつらいことをしないといけないのだろう、と思ったことをよく覚えている。

 一度経験すると面白いことも多く、またチャレンジしたいという気持ちになった。初めて海外一人旅をした時は旅行会社に飛行機やホテルの予約をしてもらったが、二回目からは全て自分ですることにした。インターネットがあるので、予約自体はそんなに難しくない。しかし実際に旅行先に着いたとき、早速問題が起きた。空港で出てきた私のスーツケースのポケットが取れかけていた。旅先では列車移動を予定していたので、持ち運びが楽になるよう軽量で小型のものをわざわざ買った、その新品のスーツケースである。

 ガイドブックの情報で、預けた荷物に問題があれば航空会社が修理費を出してくれるのは知っていた。しかし自分でそれを言いに行かないといけない。まず日本語は通じないだろう。外国の言葉で自分が説明できるだろうか。ポケットぐらい取れかけていても旅自体に支障はない。日本に帰ってから直せばいい。ここで何も言わずに帰ってから自分で修理に出せば、この場は楽できる。でもそうなると自分でお金を払わなくてはならない。スーツケースを前にあれこれ考えた。

 迷った末に航空会社のカウンターに行った。ここでなにもしなければ、これからも自分は何もしようとしなくなってしまうと思った。ちゃんと自分で言うことは言わないと、誰も何もしてくれない。一人で来た以上、できることは自分でやらないと、ここでやらないとこれからもやろうとしなくなるのではないか、それが怖かった。

カウンターにはもちろん日本人はいない。「私のスーツケースに問題があります」とポケットの部分を見せてなんとか話は通じ、すぐに書類を用意してくれて、日本での修理代金を持ってくれることになった。カウンターの人にしてみれば、日常よくある仕事なのだろう、びっくりするぐらいあっけなく話が終わったように覚えている。

 

 自分で考えて行動する、自分なりに道を切り開く、自分に責任が取れないようなことはしない。旅をしながら実践で学んだことのように思う。しかし今思えばかなりスパルタ的な学び方だったかもしれない。若くパワーもあったからこそできたことだ。

 今の自分にはどういう学び方があっているのかと考える。無理せず、焦らず、ゆっくり自分のペースで、ちょっとサボったり、自分を甘やかすようなことがあってもいいのではないかとぼんやり考えている。

 

 

 

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