長谷川泰子
河合隼雄先生がよく話をされたり、本にも書かれていたりしたことだが、やはりいい方法はない、しみじみそう思う。
相談に来られた人に「どうしたらいいですか」「いい方法はないですか」と聞かれることがある。困っている、苦しんでいるのはもちろん分かるから、それを解決できるいい方法を知っていればこちらもぜひ教えたい。しかし話を聞けば聞くほど、いい方法はないと思う。例えば同じ不登校でも、問題の中身はそれぞれ異なり、悩み方だって千差万別だ。それぞれの問題・悩みはその人だけのものであって、それに合った何かを考えなくてはならない。抱える問題・悩みを一つのきっかけとして、その人らしい生き方・方向性を探して、その人の足で歩むことが重要なのだと思う。カウンセリングに来るのは、多くの人に適応できるマニュアルタイプの解決方法ではなく、その人だけのオリジナルを必要としている人ではないだろうか。だからこそ時間をかけて話し合い、その人らしい、その人だけの道を一緒に考えなくてはならない。便利な「いい方法」ではだめなのだ。
昔、スーパーバイザーの先生に「スーパービジョンを受けても、実際にクライエントに会った時はスーパーバイザーに指摘されたこと・言われたことを全部忘れて話を聞くぐらいがいいんです」と言われたことがある。スーパービジョンに意味がない、ということではないだろう。誰かに聞いたいい方法に頼り切って、カウンセラーの方が自分で考えようとしなくなってしまうのが良くない、ということではないか。今ここでクライエントが話すこと、今ここでクライエントとの間で起こっていることに目を向け、その場で考えて話し合う、そういったことの積み重ねが、オリジナルな何かを見いだすことにつながっていくのではないか。
カウンセラーにとっても毎回の面接は未知の場所への旅のようなものだ。どこにつながっているのかは分からない。どこに向かうか分からない旅を続ける体力と技術を維持するためにも、勉強や研修の場はいつまでも持ち続けていたいと思っている。