「生活の公式」というタイトルで保存されていた文章です。最終更新日は2009年7月4日です。少し前に公開した「ポアンカレ法」にもつながる内容となっています。
生活の公式の発見
西村 洲衞男
「和をもって貴しとなす」は聖徳太子の17カ条憲法以来約1400年の間、日本人の心の公式であった。これほど尊い言葉でなくとも、勉強して良い学校に進学する、漫画の本を読むより勉強した方が良い、人にやさしく自分に厳しく、運動して健康を保つべきだ、などなどいろいろな考えがあり、それらは私たちの生活の公式として心の在り方を支えている。自我とは意識の機能とこの生活公式の集合であると言えよう。生活公式の大部分は単なる考えとして記憶に留められているけれども、さしあたりの生活はその中のいくつかが思考と行動と結びついて働いていると考えられる。
この生活の公式が役に立たなかったり、行き詰ったときに不適応になる。不適応になったら当面する事態に対処するために新しい生活の公式を見出すことが必要となる。意識は考えをめぐらしていろいろな生活公式の組み合わせを作るがうまくいかない。不適応でうつ状態となる。うつ状態は遷延しがちである。なかなか新しいものは見つからない。
私の仕事でいえば、クライエントが信頼を寄せ、熱心に通ってくるために無理をしても面接予定を入れているという行き方(生活の公式)はさらに忙しくなったとき行き詰ってしまう。疲れて元気が無くなりかえってクライエントを元気づけることが出来なくなる。自分の可能な限り仕事をしていこうという真面目な姿勢が行き詰まりを作ってしまうとすれば、誠実に仕事をこなしていこうとする公式を、中身を変えないで、何か別の生活公式を作らねばならない。それにはどうしたらよいか。手を抜くと仕事の充実感は失せるから手は抜きたくない。手を抜かずに充実感を持つにはどうしたらよいか、それを支える生活の新しい公式は何かを発見しなければならない。この新しい生活の公式の探索は、数学上の発見と同じく、ポアンカレ法によって可能だと思う。行き詰った問題は何かと考えながら解決策を思考しているといつか今までの世界の見え方が変わり、そこに新しい生活の公式が無意識から現れ出てくる。それが生活公式の発見であり、発見したときには解決している。
カウンセラーはクライエントの当面する本当の問題は何かと静かに瞑想して考え、同時にその解が問題の向うの無意識からやってくるのを待つのである。無意識は私たちの理性的意識よりも賢く、しっかりした答えを出してくるということを知っているもう一人の人であると言えよう。
私以上にオーバーワークになって困っている人はいっぱいあるのではなかろうか。そこで無理を続けて心身の病気になるよりは日頃から自分の内面に目を向けて無意識の深みから微かな声で届くメッセージを調べるのが良いのではないかと思う。そういう観点から私は毎日充実感を持って生活したい人に夢分析や箱庭制作をお勧めしたい。夢や箱庭には心の微かな声が現れるから。