「学習転移と感情転移」というタイトルで保存されていた文章です。最終更新日は2009年7月23日です。転移の問題については西村先生が書かれたもので「転移・逆転移を超えて」という文章があります。こちらもぜひご覧ください。
学習転移と感情転移
西村洲衞男
今まであまり話をしなかった人がカウンセリングの面接場面で自分の話をするようになるとその後周囲の人たちと話をするようになるのは心理療法の事例研究でしばしばみられることである。カウンセラーに向かって話したことが、周囲との人間関係に転移するのである。これを学習転移ということにする。学習心理学では、経験によって行動が変化することを学習という。自分を抑えてあまり話をしなかった人が、カウンセラーに話をするという新しい経験をし、自分のことを話しする自分になる。自分のことをカウンセラーに話す自分になったのだから、新しい行動を学習したということになる。カウンセリングで話をすることは新しい行動の学習である。
面接を終わって家に帰って、今まであまり話をしなかったお母さんに自分のことを話し始めるとすると、それはカウンセリングで学習した行動を他の人間関係に転移したことになる。これを学習心理学では学習の転移という。
この学習転移は、従来の精神分析でいう感情転移と全く違う。精神分析でいう転移は、親子関係で経験していた関係が分析家との間で再現されると考えられるものである。親に対してすねる態度をとっていた人が分析家に対してもすねる態度を繰り返すとしたら、それが転移と見なされる。すねる人に分析家も手こずり、自分の子供時代からのすねる態度への感情的な行動が再現される可能性がある。それを逆転移と呼ぶ。精神分析では転移と逆転移の対で考える。幼児期の親子関係が治療的関係に転移すると考えるのは分析家側の幻想であるかもしれないので、そのような根拠のない考えは心理療法の実際ではしない方が良いと思う。
学習した行動の転移はいくらでも跡づけすることができる。学習転移の方が客観的で心理学的である。心理療法が客観的研究に値するものになるために、このような研究から進めるべきであろう。