長谷川泰子
甘いもの好きである。グルメではないので普段から積極的においしいものを探し回っているわけではないが、どこか遠出をする時は必ず事前にその土地のお菓子を調べて買いに行く。以前、神戸で学会があった時には、せっかくなら河合隼雄先生の故郷である丹波篠山を見に行こうとレンタカーで出かけた。丹波篠山は小さな町だけれど、とても雰囲気の良いところである。確か篠山城にあった丹波篠山の歴史について書かれていたところで触れられていたが、丹波篠山は昔から教育に力を入れていた土地らしい。明治時代には地元の人が東京でも学べる場をと、都内に教育施設を作ったりもしていた。こういった歴史の流れの中から河合先生のような人が現れたのだと思いちょっと感動もして、ここまで来て良かったと思った。
実はこの丹波篠山は黒豆や栗が名産である。それらを使ったお菓子がたくさんある。観光案内所にはお菓子を紹介したパンフレットもあり、甘いもの好きにはたまらないところだ。河合先生に対する尊敬の念はもちろんあるけれど、甘いものにも大いに惹かれる。訪れた時は秋で、新栗を使った洋菓子・和菓子も沢山あり、黒豆を使った大福などもおいしかった。町の雰囲気がとても良いのももちろんあるが、なによりもまたあのお菓子を食べたいと、その後も甘いもの目当てで何度か丹波篠山まで出かけた。お取り寄せもあるけれど、大福などはその場でしか味わえない。
ところで、どうも甘いもの好きは女性、男性でケーキやおまんじゅうを好む人は少数派というイメージがあるように思う。芸能人などでは男性で甘いもの好きはそれだけで意外性があり、場合によってはアピールポイントにもなるらしい。しかし、当たり前といえば当たり前だけれども、甘いものを好むのは性別に関係するものではない。
知り合いに日本に長く暮らしているフランス人がいる。彼のお父さんが日本に来た際に温泉旅館に招待したそうだが、お父さんは温泉旅館の朝食(ご飯やみそ汁、焼き魚や湯豆腐などなど)ではどうしても満足できず、後からコンビニに行って甘いパンを買って食べたという話を聞いたことがある。日本食は大好きだが、朝食に甘いものがなかったのが納得いかなかったのだそうだ。知人によればフランスでは朝ご飯といえば甘いものなのだそうで、甘いものを食べなければ朝ご飯を食べた気がしないのだと言う。彼に、日本では男性は甘いもの苦手というイメージもあるけど、と聞いてみたが、さっぱり理解できないという感じで、男性だってケーキやチョコレート好きでしょ、男女の違いってあるの?と言う。料理好きでもある彼は、ちょくちょく自宅でスイーツを手作りして家族に振舞っている。
甘いもの好き=女性、というイメージは、女の子なら赤、男の子は青、という固定概念同様のもので、一種の思い込みにすぎないが、この手の思い込みは自分でも意識しないまま、いつの間にか刷り込まれているものも多い。普段は全く気が付かずに過ごしているが、思い込みとは異なる状況を見聞きすること、体験することで、初めて自分の中の固定概念を意識できる。
できたらこういう思い込みを意識できるような体験を多くしたい。こういう体験を拒否することなく楽しめるようになりたいと思っている。