長谷川泰子
猫は好きだが、猫を飼う・世話をする余裕はないので、猫の動画を見て自分を満足させている。
猫の動画は山のようにあって、その世界では有名な猫もたくさんいるようだが、私はあれこれたくさん見るのではなく、今は「ももと天空」という動画ばかり見ている。天と空という2匹の猫とももという1匹の犬、その飼い主である夫婦の日常生活を映したもので、特別な仕掛けや演出がないところが気に入って、結構まめにチェックしている。今ではこの3匹は犬・猫動画界ではかなり有名な存在らしく、少し前には写真集も出したそうだ。
もともとはもも(メス)という犬だけを飼っていたようで、すでにももの子犬時代から動画のアップは始まっている。しばらくして子猫(オス)を迎え入れることになる。天と名づけられた子猫にももがお乳をあげるような動画もあり、しばらくは2匹の蜜月時代がつづく。ところがそこに1匹の猫(オス)が迷い込んでくる。結局、空と名づけて飼うことになるのだが、この新たな1匹が家族の一員になっていく過程を映した一連の動画は、何度見ても興味深い。ちょっとしたドキュメンタリー映画だと言ってもいいぐらいで、3匹の存在をていねいに追っていて、それぞれの気持ちがひしひしと伝わってくるところがある。
新参猫は何とかこの家族に入り込もうとがんばる。人間にも動物にも積極的に近づき、仲良くしてほしい・家に置いてほしいと必死にアピールする。野良の生活はやはり大変なものなのだろう。犬は新たな猫に興味津々で、先住猫を育てた経験もあってか新しい幼い存在が気になる。しかし同時に自分が育てた先住猫の気持ちも分かって、2匹の猫の間を行ったり来たりして両方の気持ちに添いながら、この2匹が急接近しないように気を使っているのが見て取れる。先住猫は新参猫の存在が受け入れられず全力で無視をする。新参猫がまるでいないかのように振舞う、偶然向き合ってしまうことになるとあわてて顔をそむける、相手が近くに来ると飛びすさる。飼い主はそういう犬や猫たちを見守っている。
新しく登場した猫を先住猫が受け入れて行く過程を見ていると、自分の下に新たなきょうだいが生まれた子どものことを考える。赤ちゃん返りが見られたりすることもしばしばあるが、子どもにとってきょうだいが生まれるというのは存在の基盤が揺らぐような大事件とも言えるかもしれない。また2匹の関係に1匹が加わるというところでは、思春期の女の子から多く聞くようなことで、2人で仲良くしていた友人との間にもう1人が入り込んできて人間関係がギクシャクする、といった問題と重なるところがある。2人から3人へという変化は人間関係の広がりで、社会性を身につける上で重要な経験となるが、だからこそ3人の関係では2人では経験しなかったような複雑な思いを抱くことになる。関係を維持するためにそれなりの努力と工夫、冷静な判断も必要になってくる。
動画を見ていると、2匹の猫の周りにいる飼い主も犬も、どちらの存在も尊重しながら焦らずおだやかに見守っている様子がうかがえる。ただ、見守るといっても何もしないわけでもない。気持ちを理解しようという努力は惜しまず、しかし適度に放っておく。そのゆるく安定した環境の中で少しずつ変化が生じていく。指図したり指示したり教え込んだりするのでもない。大事なことは葛藤を抱えながらもその場に居続けられる環境を整えることなのかも知れないとも考える。
今では仲良く暮らしている3匹の様子を見ていろいろと考える。動物から教えられることも多いものだ。