長谷川泰子
檀渓心理相談室のHPでも案内を掲載した、東京で行われた箱庭の研修会に講師として呼ばれて行ってきた。前室長の西村先生が東京でやっていた研究会があり、そこのメンバーの方の紹介があって今回の研修会に呼んでいただいた。ここでも西村先生の仕事を引き継ぐようなかたちとなり準備にも気合が入ったが、無事に終わり、参加者の方々にも喜んでもらえたようなのでほっとしている。この箱庭の研修会を終えて、やっと西村洲衞男先生を偲ぶ会が終わったような気もした。
研修会では質問もいろいろあり、参加者の方々の積極的な姿勢を感じた。個人的にはこういう研修会などの講師を務めるときに一番楽しいのが質問の時間である。質問されるとその場でいろいろ考えるので、準備したものではない考えやアイデアが出てくるところが自分でもおもしろい。講師を務める時にはなるべく質問の時間を多めに取りたいと思っている。
研修会の参加者の中にはこれから箱庭療法を積極的に取り組んでいこうと考えている人も多く、前半は基礎的なことも含めて講義をした。ただ、箱庭を知るためには自分で箱庭を作ることが何より重要となる。今回は研修会を企画してくれた方々の提案もあって、後半は「集団箱庭」をやってみることにした。ひとりでひとつの箱庭を作るのではなく、グループでひとつの箱庭を作るのである。これなら参加者全員が限られた時間の中で箱庭の体験ができるし、自分の箱庭を大勢の人に見せることに抵抗がある人も安心して箱庭を体験することができる。
私自身は集団箱庭の経験はなく、今回はじめてそういうやり方もあるのかと知ったぐらいで、どうなることか想像もつかなかったが、やってみるといろいろ思うことや気がつくこともあっておもしろかった。
作成の過程を見ていると、開始直後はなんとなく遠慮がちに控えめにおいていく人が多い。しかしそんな中で、突然ポーンとびっくりするようなものを置く人が出てきたりする。その後の経過を見ていると、そこから全体の流れに変化が生じて箱庭がおもしろくなっていくところがあり、最終的にバランスの整った、しかし遠慮や調和だけでもない、ユニークな表現が生まれてくる。それまでの流れから外れた異質なものが置かれると、それをどう取り込んでいくのかをひとりひとりが積極的・主体的に考え始めることになり、グループ全体が活性化するのかもしれない。結果的にそれが豊かでおもしろい表現につながるようだ。出来上がってみると、異質なものがあるからこそ見ごたえのある箱庭になっている。箱庭に限らないが、異質なものを排除しないで取り入れていくことの重要性を強く感じた。
集団箱庭はひとりで作る箱庭とは異なり、自分の表現したいものを自分なりに表現することに制限がかかる。それぞれが持つ全体性を表現するような場ではなくなるが、気軽に箱庭を体験することはでき、箱庭の研修には取り入れやすいところもあるように思った。箱庭療法がめざす本来の意図とは異なるかも知れないが、集団で作るときにはグループのチームワークも必要になるので、それを高めるための研修にも使えるのかもしれない。ただ参加者それぞれが安心して取り組めるようにきちんとルールを決めるなど様々な工夫や配慮は必要不可欠である。箱庭療法の経験がある専門家が指導してやることが重要だということは強調しておきたい。