長谷川泰子
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
休みの間に「マザーツリー 森に隠された知性をめぐる冒険」(スザンヌ・シマード著 三木直子訳 ダイヤモンド社)という本を読んだ。人から教えられて興味を持ち、早速購入したのだが、木の知性あるいは木の叡智ともいうべきものを知ることができる本で、とてもおもしろかった。
著者はカナダ在住の森林生態学者である。はじめ森林管理の仕事に就いていたが、人間にとって役に立つ、つまりは木材として売れるような木ばかりを残して不要な木を根こそぎ排除してしまうような管理方法に疑問を抱き、研究の道に足を踏み入れた。これまでの定説を覆し、従来の方法に異を唱えるような研究を発表し続けてきたために批判を受けるようなことも多かったようだが、今では彼女の研究は森林生態学に大きな影響を与えているらしい。
彼女は研究を通して、森に生きる木々が地中の菌類の張り巡らすネットワークを通じて栄養を送りあっているということを明らかにした。木は自分の子孫を識別する力があり、自分の子孫である若木にはより多くの栄養素を送っているのだという。しかしそれだけではなく、地中のネットワークを通じて他の木、種類の異なる木とも栄養を交換し合っている。さらに驚くべきことに、例えば何らかの危機的な状況が生じて木が終わりを迎えるような時には、最後に残ったエネルギーや養分を急いで子孫に送り、若い世代の木々が今後の変化に備えられるように手助けをしているということも明らかにした。木は見えないところで様々につながり、多様なコミュニケーションを持って生きているのだという。
つながりによって生きるのは人間も同じだ。木が持つ地中のネットワークのようなものは、人間が生きる上でも必要で、良いつながりを持てるように援助するのがカウンセリングの役割かもしれないとも考える。そこに携わる私たち臨床心理士は面接室では一人で仕事をすることが多いのだが、それを支えるのもやはり仲間とのつながりだと思う。前室長の西村洲衞男先生が、臨床心理士という資格が誕生した頃に書かれた「連帯」の意義を説いた論文があり(「臨床心理士の連帯の意義 法華経地涌品に学ぶ」)、この檀渓心理相談室のHPをリニューアルしたときに真っ先に掲載した。そこにも「私たち臨床心理士には医療のような技術も薬もない。あるものはこころだけである。それは相互の研修と協調していく人間関係によって育てられていくものである。このチームワークに支えられた心理療法のなかで、クライエントはこころの安全を保障され、成長していくことができるのである」とある。
よいつながりを持つこと、多様なつながりを持つこと、そしてそのつながりを通しての相互作用が、それぞれが自分の根をはり、自分の幹や枝を伸ばしていくことに必要なのではないか。