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あぐらをかかない

長谷川泰子

 

 新聞に掲載された俳優の真田広之さんのインタビュー記事を読んだ。自身が主演したハリウッド製作のドラマの紹介と宣伝を兼ねたインタビューだった。

 真田さんは約20年前にアメリカに拠点を移して活動していたのだそうだ。映画「ラストサムライ」に出演した時には撮影後も自腹でロサンゼルスに残って仕上げ作業に参加し、日本文化についての助言をしたという。それまでの日本でのキャリアを知らないところで仕事をしていくには、いろいろな苦労や努力があったはずだ。

 インタビューによれば、ハリウッドというところは「キャリアや名前であぐらをかけない」ところなのだそうだ。その上で「ベテランが必死になる姿は気持ちがいい。自分もそうありたい」と語っていたのが印象に残った。あぐらをかけないから必死になるしかない。私の知る多くの先輩方・先生方はみな、ベテランと言われるような経験年数を持っていても、そのことにあぐらをかかず、むしろまだまだ学ぶことは山ほどあると研修会や勉強会も熱心にやっていた(やっている)し、好奇心をもって新しいことにチャレンジもしていた(している)と思う。この相談室の前室長の西村洲衞男先生は、70代を過ぎても毎年学会で事例発表をしていた。事例発表をするためには発表できるだけの成果を残さないといけない。記録をまとめて発表の資料を作り、事例からどのようなことが言えるか自分なりの考えをまとめないといけない。それを毎年、しかも事例発表とは別に自主シンポジウムも企画してやっていたのだ。誰かから強制されたわけでもない、自分から進んで、しかも新たな発見を得ようといきいきとした好奇心を持って動いていた。相当なエネルギーを注いでいたのだと改めて気付かされる。

 実際、臨床の仕事を続けていると、新たに出会う人は今まで会った人とはもちろん違う人で、これまでの経験が生かされないわけではないけれど、経験だけでは会い続けることができないと実感する。同じ不登校の問題を抱えていても、この人とあの人は全く違うのだ。人間相手の仕事である以上、この仕事を続けていこうとすると経験にあぐらをかくことはできない。

 自分ではベテランという意識はあまりないけれど、この仕事をはじめてもう30年近くたつ。いつまでも熱心に、そして謙虚に仕事に取り組み続けた多くの先生方の姿を見ることができたのは、私にとって大きな財産だと思っている。あんなふうに、いつまでもあぐらをかくことなく自分の仕事を続けていきたいものだ。

 

 

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