「沖縄の生活史」(石原正家・岸政彦監修 沖縄タイムス社編 みすず書房 ブログ「ゆんたく」参照)に引き続き、「大阪の生活史」(岸政彦編 筑摩書房)を読み始めた。しかし読んでも読んでも終わらない。なにしろ1200ページを超える本で、辞書よりも厚いのではないかと思わせる量なのだ。
本の帯には「150人の人が語り、150人の人が聞いた大阪の人生」と書かれている。編集者の岸は「一般公募型大規模生活史プロジェクト」と記しているが、インターネットで一般の人から聞き手を募集し、その聞き手が語り手を選び、インタビューをし、原稿を作成する。要は大阪に住む一般の150人の人の生活史が掲載された本だ。
これがびっくりするぐらい面白い。岸は「ここにはあらある喜びがあり、あらゆる悲しみがあり、あらゆる希望とあらゆる絶望がある。ここには大阪という街がある」と書いているが、ひとりひとりの生活史を実際に読んでみると、大阪在住の150人の生活史、と聞いた時に想像するもの以上の驚きと発見がある。
今はまだ半分をやっと読み終わったところだが、急いで読むような本でもない。合間を見つけては少しずつ読み進めればいいかと思っている。
ところでこの本はしばしば行くスーパーの上階にある本屋で見つけて購入した。100円ショップやフードコート、ゲームコーナー、食器や日用品などが売られているスペースが同じフロアにあり、それほど広いスペースではないところで営業している。つまり小さな地方都市のあまり大きくはないショッピングセンターにある本屋であり、客層はそれなりに限られるだろう。実際、店内は雑誌と子供向けの本、旅行のためのガイドブックなどがかなりのスペースを取っている。ただ、各新聞の書評で取り上げられた本をもれなく置いているコーナーもあって、私もこれまで何度かそのコーナーに置いてある本目当てにこの本屋に行ったことがある。
以前、「沖縄の生活史」を購入したのもこの店だ。「沖縄の生活史」について書かれた文章をどこかで目にして一度読んでみたいと思っていたところ、たまたまこの本屋で見つけたのだ。
「沖縄の生活史」も900ページ弱あり、1冊で自立するほどの厚みがある。話題になったとは言え、5000円近くする本で、中身をよく知らない人が店で見てぱっと買う本でもないだろう。それをこんな小さな地方の本屋が店に置いてくれるなんてと、見つけた時にはちょっと驚いた。
その後少したってから、かつて「沖縄の生活史」が並べられていた棚に、読みたいと思っていた「大阪の生活史」が置かれていた時は、さらに驚き、少し感激もした。大げさかもしれないが、インターネットの影響で街の本屋が苦戦している中、本屋の意志、あるいは意地のようなものも感じられたからだ。
臨床心理士という、ひとりの個人と出会って、ひとりひとりの生き方を共に考える仕事をしていることに加え、心理相談室を個人でやっていることもあるからだろうか、小さな店、個人でやっているような店がいろいろと工夫してがんばっているのを見ると、心の中で勝手に仲間意識、連帯感を持ってしまう。こういう心意気のあるような本屋を見つけると、やっぱり応援したくなる。
たったひとりの行動で大勢(たいせい)がころっと変わることもないだろう。しかしやはり大勢(たいせい)だけを見ることにはどうしても抵抗感を抱く。別に大げさなことでもない。小さなところや個人でがんばっている人もいる。その人なりのやり方で生きている人がある。それを大事にすることが大事だと考えている。
そういう訳で、わざわざ出かけるのはちょっとした手間ではあるが、なるべくこの本屋を利用しようと考えている。
(ちなみに、この本屋は、私が「大阪の生活史」を購入したあと、また同じ本を棚に並べた。確かに話題になった本だしとても面白いけれど、地方の小さな書店で簡単に売れるのか、少し心配になるとと同時に、やっぱり本屋さんがんばれ、という気持ちになった)