· 

新しいカバン

 仕事用のカバンを新調した。

 今までのものは長く使ったせいで色も褪せて汚れも目立つようになり、新しいものに替えたいとずいぶん前から思っていた。しかし仕事用のカバンは長く、しかも毎日使うもので、購入するとなるとどうしても慎重になる。使いやすいものであることはもちろん、やっぱり色や形など気に入るものが欲しい。ネットで探したり、実際にあちこちのお店で見てみたりして、最終的に同じ店にあった2つに候補を絞った。

 仕事用のカバンなので、A4サイズのファイルが入ることが大きな条件になる。あとは個人的な好みで、肩に掛けるものではなく、手提げのタイプの、持ち手が短いカバンがもうひとつの大きな条件だ。候補の2つは両方ともこの条件をクリアしていて、色や形も好みだし、ポケットもいくつかあって使いやすさも十分だった。ただ、一方はちょうどA4サイズ、もう片方はそれよりもやや大きめのものだ。

 今まで使っていたカバンはA4サイズよりもひとまわり大きなサイズのものである。男性向けの商品で、一泊程度の旅行にも対応できるような大きさものだ。デザインがシンプルなのと、何よりサイズの大きさが一番の決め手となってそのカバンを購入した。最初から男性用のカバンを探していたわけではなかったが、当時の私には女性向けに作られたカバン、例えばA4サイズのトートバッグのようなものでも、なぜか小さく頼りなく見えた。あちこち探して、結局男性向けの商品が並んでいるところでやっと気に入るものを見つけて、今のカバンを手に入れた。大きくて頑丈で、とにかく何でも詰め込める。そこが良かった。

 今度のカバンもまた、大きなサイズのものにしようかとも思った。大は小を兼ねる、その方が安心だろう。しかし散々迷って、あえて小さい方のものにした。小さいといっても、A4サイズのものは十分入る大きさだ。これで十分だろうと思った。

 ここ最近、自分の経験や考えを人に分かりやすく説明することを求められる機会が増えてきた。今までは自分が力をつけることばかり考え、知識や経験を取り入れることだけに集中してきたが、この仕事をはじめて30年近く経ち、今までのように取り入れるだけではなく、自分の中にあるものを外に出すことも考えないといけなくなってきたのかもしれない。人に伝えることや説明することを面倒がらずチャレンジしていくことも必要ではないか、逃げてばかりもいられない。そんなことを意識することもあった。

 そういうことを考えていた時期だからだろう、詰め込むばかりでなく、もう少し身軽に動けるものをと思ったのかもしれない。これから新たなカバンとの付き合いが始まる。今までとは少し違う動きも出てくるだろうか。

 

 

〈次へ  前へ〉