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古傷が痛む

 先日、あごの右の上、右の耳の下の辺りがずきずきと痛むことが続いた。四六時中、痛みを感じるわけではないが、ふとした瞬間にズキッと来る。痛み止めを飲むほどでもないが、ちょっと憂鬱な体験だ。

 昔から疲れている時や、睡眠不足の時など、この辺りが痛むことがある。はじめは歯に問題があるのか、虫歯だろうかと、歯科医を受診したりもしたのだが、虫歯もなく、検査しても何も問題はないとのことだった。ずいぶん昔に親知らずを抜いたのだが、右下の歯は歯茎の下に埋もれていて、しかも生え方が特殊だったこともあり、簡単に抜くことができずに手術になった。時々痛むところはこの歯があったところの下で、自分では「古傷が痛む」ようなものだと勝手に解釈して、仕方がないとあきらめている。普段はなんともないのに、疲れている時などに出てくるのだから、今は無理しないほうがいい、休養を取れという体からの知らせのようなものだろう。実際、なるべく睡眠を取るようにしたり少し体を動かしてリラックスしたりするように心がけていると、少しずつずきずきの回数が減っていき、いつの間にか痛みはなくなる。

 このことを別の方向から考えてみると、ずきずきとした痛みのもとを抱えながらも、普段はそれを感じないまま生活ができるということになる。ある程度の体力、エネルギーがあれば、痛みのもとがあったとしてもそのことに気がつかずやっていけるらしい。これはこころのことにも通じるようにも思う。

 誰もが心の中にそれなりの痛みのもとを持っている。触れると痛みを感じるような体験、思い出、「古傷」を、誰もがいくつかこころの中に抱えているはずだ。普段はそのことに触れずに、痛みを感じずに、そんなことがあることすら忘れて生活している。しかし、疲れたり、ストレスがたまったり、良くないことが続いたりしてエネルギーが低下すると、普段はおとなしくしている「古傷」が顔を出す。忘れていたことを思い出したて苦しくなったり、ちょっとしたことがとても気になったりして、ずきずきと痛む。

こういう時は、やはりゆっくり休んで体力、エネルギーを取り戻すことがまずは大事だろう。それでもどうしてもおさまらないようなことは、改めてゆっくりとこころにおさめる方法を考えてみる必要があるのかもしれない。ただ古傷の取り扱いは注意を要する。下手に触って傷を広げることがないよう、例えばカウンセリングを利用することがあってもいいと思う。

 

 

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