美術館に行くことは好きで、おもしろそうな企画展があればできるだけ時間を見つけて足を運ぶようにしている。自分自身は芸術的センスとは無縁の人間で、絵を見ていても「これは好きな絵だな」とか「こういうのを自分の家にも飾りたい」とか、ごくごく単純なことばかり考えているが、それで結構楽しんでいる。
この仕事をしていると、なるべく絵画や音楽、舞台など芸術の分野に積極的に触れるよう心掛けるようにはなる。人のこころや精神が表現されているものに触れるのも勉強だ。まだ駆け出しの頃、スーパーバイザーの先生にも、芸術鑑賞や読書、旅行などは積極的にするようにと強く勧められたことがある。「心理学の本を読むよりずっと大事だ」と言われたが、確かに知的な理解だけではこの仕事はできない。
どういうわけだか知人には美大出身の人が何人もいる。そうでなくても絵を描いたり造形作品を作ったりしている人もいて、当然ながら皆、美術・芸術の分野に強い関心があり、いろんなことを知っている。こういう人に会って話をするといろいろと教えられることが多い。今美術館でこういう展覧会がやっているけど、こういう展示は珍しくて見る価値があるとか、この展覧会はおそらくこういう背景で企画されたものだろうとか、この芸術家はこんな人でこういう作品が面白いとか、話を聞いているとそれはぜひ見に行きたいという気持ちになる。
自分が何も知らなくても、詳しい人や得意な人は他にいる。無理にかんばらなくても、そういう人から教えてもらえればそれでいいのだなと思う。
若い頃は自分ができないことや自分に欠けていることに敏感で、劣等感を抱くこともあったが、年を重ねてくると、そこまで深く考えずに済むようになってきた。開き直りとも言えるだろうか。仕方がないとあっさり思う。できないことは手伝ってもらえばいい。分からないことは聞けばいい。その方が早いし楽だ。もう少しがんばった方がいいのかな、あきらめがよすぎるかなとも考えたりもするが、仕方ないと思えるようになったのもひとつの進歩だと思っている。