今に始まったことではないが、様々な分野で「芸人」と呼ばれる人が大活躍している。バラエティ番組で本業の芸人として登場するだけでなく、司会をやっている人もいるし、役者としてドラマや映画に出る人も、脚本を書いたり監督をしたりする人もいる。絵を描いたり芸術家としての才能を発揮したりする人もいれば、小説を書いて芥川賞まで獲った人もいた。
芸人として活躍している人たちを見ていると、みんな本当に人それぞれで、ひとりひとりにその人らしい「売り」がある。それは一見、欠点に思えるようなところであったりもするが、その人にしかない特徴で他の人と異なるところであるからこそ一番の「売り」になる。そうなってしまえば、もうそれはその人の欠点でもなんでもない。むしろ前面に押し出してアピールすべきものとなる。
自分を変えたいと思ってカウンセリングに来る人は多い。実際に、いろいろな問題が起こって今の自分のあり方や今後の生き方を考え直す必要に迫られ、あれこれやってみたけどうまく行かず、どうしていいのか分からずにカウンセリングにたどり着いた、という人にしてみれば、自分を変えないといけないという思いが強くなるのは当然のことだろう。「他の人は変えられない以上、自分が変わるしかない」という話もカウンセリングの場面でよく聞く。
確かに、どこかが、何かが、変わる必要があるのだろう。しかし、それは目に見えない、言葉ではうまく言えない何かだったりするのかもしれない。「自分」というものは実体があるようでないものであり、また同時に実体など無いように見えながら確かにあるというやっかいなものだ。そういったものを変えようと思っても何をどう変えていいかはっきりしない。
本人が自分の欠点だと思っているところが、他の人からすればその人の特質であり、美点にすら見えることがある。人よりも優れていて目立つところ、突出したところだからこそ、本人にはやっかいと感じられ、他人には優れたところに見えるのだろう。例えば本人は人目を気にしてクヨクヨしやすいところがあると思っていても、別の角度から見れば、自己中心的ではなく人の気持ちを考える他者配慮的なところがあると評価されていることがある。クヨクヨしたくないと思って自分を変えようとしても、今までずっとそのやり方で生活し人と接してきていているのに、簡単にその傾向を捨てられるものでもない。
芸人として生きている人を見ると、自分の持っているもの全て、それを「売り」にしていくことができるのではないかと思う。今の言葉で言えば、それがその人の「キャラ」なのだ。自分の「キャラ」、自分の持ち合わせているもので勝負していくしかない。人と異なっているところを抱えて生きることは確かになかなか大変だ。自分だけが持っているものであるからこそ、自分自身でその「キャラ」を「売り」にしていく方法を考えるしかない。カウンセリングはそこのところをどうしたらいいのか、つまりその人の「キャラ」を否定することなく、活かすにはどうしたらいいのかを考える場ではないかとも考える。
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