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テーブルの行方

 前回、新しいテーブルと椅子が来ると書いた。当初1月末頃に届く予定で、だからこそ古いものの処分を考え始めていたのだが、ブログを書いて数日後に店から連絡が来た。椅子はもう完成しているが、テーブルの方が仕上げの段階で美しくない、良くない木目が出てきた、最初から作り直したいので、納期を遅らせて欲しいと言う。

 作り直すと聞いてびっくりしてしまった。言っておくが、特別値の張る高級品でもないのだ。ネットで探した木製家具の店で頼んだもので、ただ「店」と言っても、いくつかの見本品を並べているところがあるだけで、販売のための店舗はない。商品のストックも持たず、注文を受けてから品物を作成するという。店舗も倉庫も持たず、少ない人数で回して経費を抑えて価格を下げるというやり方のようだった。CMを盛んに流している量販店のものより値段は高いが、それでも手の届く範囲である。いろいろと見てまわり、量販店は種類も豊富で確かに「お値段以上」と思うようなものもあったのだが、せっかく買うのならちょっと奮発して気に入ったものを、と思ってこの店にした。

 作り直しの話を周囲の人にしたところ、さすが職人、誠実な仕事ぶり、という反応が多かった。こちらは別に急いでいるのでもなし、ゆっくり作ってもらっていいものが届けばそれが一番だ。しかし店はそれで経営が成り立つのだろうか。繰り返しになるが、職人にこだわりぬいて作ってもらうような値段ではないのである。木製の家具である以上、思わぬところで見た目のよくない木目が出てくる可能性は十分にあるわけで、それを納得がいかないからといちいち作り直していて本当にやっていけるのだろうか。

 

 理想を追い求めることや理想に向かって努力することは、一般に賞賛の対象になりやすい。しかし一方で私たちは現実も生きないといけない。お金や時間に限りあり、様々な人の考えや思惑があり、社会生活を送るための義務や役割を担うことも必要になる。職人仕事もそれが可能な条件と環境があって続けられるものだろう。

 理想と現実は相反するものであることがほとんどで、時に大きく対立もする。その間で私たちはどのような道を進んでいくのか毎回悩んで考えるしかない。理想をどの程度大事にし、現実をどの程度考慮するのか、その程度は人によって、場合によっていつも異なる。理想と現実、どちらか一方だけを選択することが良いとは思えないし、唯一絶対の正解があるわけでもない、正しいことを実行することがいつも良いのでもない。葛藤を抱えながらもあれこれと考え自分なりの決断や選択をすることが重要で、そこにその人らしさが生まれてくるのではないだろうか。

 

 テーブルはどのように作り直すのか素人にはさっぱり分からないが、それなりのやり方があるのだろう。問題のところを切り落として小さいサイズのテーブルを作ることも可能なのかもしれない。どうも「訳あり商品」のセールもあるようだ。納期は未だ不明だが、待つ時間が長いほど、楽しみが増すような気もしている。

 

 

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