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ひとつのぜいたく

 少し前に、遠方に引越しをした知人と久しぶりにあって食事をしながら話をする機会があった。

 同じ仕事をしていることもあり、日ごろから様々な用件でメールや電話でやり取りをすることがあり、直接会ってもあまり久しぶりという感じもしなかった。しかしあれこれ話をしていると、やっぱり直接会うからこそ出てくる話や思いつくこともあり、気ままにしゃべって楽しい時間だった。

 何にお金を使うのか、どういうことをぜいたくと考えるのかは人によって様々だろう。しかし年齢を重ねてくると、会いたい人と会って話をすることに時間とお金を使うことが一番のぜいたくなのではないかという気がしてくる。メールやSNSのつながり、オンラインでのやり取りは手軽で便利でお金も時間も節約できるが、直接会って話をすることで得られる何かがある。

 何か形に残るものがあるわけではない。成果が得られるようなものでもない。ただのおしゃべりなんて電話でもできる、顔が見たければオンラインでも可能だ、そのほうが経済的だと言われれば確かにそうかもしれない。しかし同じ時間と空間を共有し、自由にしゃべって笑って、どうでもいいようなおしゃべりだとしてもそれに夢中になって人と話しをすることで、こころがいきいきとしてくる。それはたとえば高価な車や宝石などを所有することよりも価値のあることではないだろか。

 良い思い出や体験はどれだけ持っていてもいっぱいになることはない。どこへでも楽々と持ち運ぶことができる。こういうことの一つ一つが私たちの生きるエネルギーになるものではないだろうか。

 

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